「どーれ、授業始まるぞー。」



ぎゃ、黒沼先生きた。



上手い言い訳考えてないのに。



生物の黒沼先生は、忘れ物をした生徒に厳しい。その場に立たせてネチネチ説教するから、絶対皆から注目されるし、何より恥ずかしい。



授業を始めるとまず、前回の授業のおさらいをしながら生徒の机の上を1つひとつ見てまわり、忘れ物がないかチェックする程の徹底ぶりだ。



やばいやばい!



もうすぐそこまで来てるよー。



頭の中が真っ白になって下を向いていると、
ートサッ。
えっ…。



「なんだあ藤沢、教科書忘れたのか?」



「部室に置きっ放しにしたかもしれないです。」



「たく、しょうがない奴だなあ。あのな、部活ばっか頑張ってても駄目だからな。」



えっ、ちょっ。



声を出そうと動いた私の手を藤沢の左手が制止した。



「お前、ちょっと上手いからって天狗にはなるなよお?学生の本分は勉強だからな。」



「はい、気をつけます。」



先生はその後、何事も無かったかのように授業を再開していた。



「ちょっと、藤沢君。」



「ん?」



小首を傾げてこちらを見てくる藤沢君は、私がクラスの女子だったら、目がハートになるような優しくて甘い顔をしていた。



「ん?じゃなくて、教科書!その、ごめんなさい。」



「いーよ。」



「よくないよ「こぉーら!誰だ喋ってるのは!」



げ、まずい。