「ない、一枚足りない」

どこだ? どこいった。キョロキョロしていると、自販機の下に入りこんでいるのに気が付いた。嘘、あんなところに。急いで駆け寄ろうとすると、

「いい、俺が行く。待ってて」

臣が私を阻止するように手を広げ、そして自販機に下を覗き込むと、必死に手を伸ばした。

臣……。
スーツ、汚れちゃうよ。お客さん、待ってるよ。

見て見ぬふりしてればいいのに。やっぱりなんだかんだ優しいよね。そうやっていつも私のこと助けてくれるんだよね。

「ん、気をつけろよ」

パンパンとスーツについたほこりを叩きながら近づいてくると、取ってくれた書類を手渡しこっそり言った。

「ありがと」
「それと、スカートで四つん這いはどうかと思うぞ」

注目されてたと言われ、カァーッと顔が熱くなる。そうだ、必死で忘れてたけど、すごい絵図らだったかも。周りのことなんて気にも留めていなかった。

あ……もしかしてそれで見兼ねて?

「ありがと……臣」

思わずいつものように呼び捨てすると、臣はシーッと口の前で指を立てた後、ニヤッと笑って戻って行った。その笑みにキュンとしてしまう。