ーかのんー

「んん…」

ゆうた「かのんちゃん?分かる?」


私はゆっくり目を開けた。


ゆうた「よかった。工藤さんに診てもらったよ。これ、薬ね?」


私は薬を受け取りそのまま水で流し込んだ。

「ありがとうございました。帰りますね。」

そう言い、立ち上がった。


みつき「かのんちゃん、ごめんね。今かのんちゃんを家に帰すわけにはいかない。」

「え…?」

みつき「かのんちゃん、話してくれないかな?さっき言いかけたこと。」


私は俯いた。


ゆうた「ゆっくりでいいから。」

「私…最後に…ちひろにお願いしたんです。抱きしめてって…そしたらちひろ優しく抱きしめてくれました。私は何があってもその温もりを忘れません…だから…私は何があっても大丈夫なんです。ちゃんとその温もりを思い出せるから…。これ以上、ちひろにも周りの人に迷惑をかけたくないんです。。。」


私は俯いたまま話した。


ゆうた「やっばり、ちひろの言ってた通りだな。」

「え?」

思わず顔を上げた。


みつき「かのんちゃん?俺らはかのんちゃんの言いかけたこと分からなかった。でもちひろはちゃんと分かっていたよ。」

「ちひろ…」


私の目には涙が溜まっていた。
そして、ちひろを見た。
ちひろは眉間にシワを寄せ、苦しそうに呼吸をし、眠っていた。

「私…やっぱりちひろの傍にはいられません。」

みつき「なんで?」

「私は、ちひろの事が大好きです。でも、ちひろの傍には居ちゃいけないんです…私が居るとちひろは無理するんです。だから負担が大き過ぎるんです。」

ちひろ「ふざけんな。」

ゆうた「ちひろっ?!」


寝ていると思っていたちひろはいつの間にか起きていた。


ちひろ「ふざけんなよ!俺は1度だってそんなこと思った事ねーよ!勝手に決め付けてんじゃねーよ」

「…」

ゆうた「ちひろ!落ち着けよ!」

ちひろ「お前は、俺をなんだと思ってんだ。」

ゆうた「おい!また発作起きるぞ」

ちひろ「発作が怖くて、何が出来るっつーんだよ!!」

ゆうた「分かったから。とりあえず今は落ち着け。」


そう言い、ゆうたくんはちひろを座らせた。


「ごめんなさい…でも…私…ハァハァ」

みつき「かのんちゃんも落ち着いて?大丈夫だから。」

「私は…ハァハァ…いいんです…ハァハァ」

みつき「よくないよ?」

「お母さんの…ハァハァ…言う通りハァハァなんですハァハァ…」

みつき「かのんちゃん。もう、喋らないで?」


ちひろは、何も言わず私を包み込んだ。


久しぶりのちひろの匂い、感覚に私の目からは大きな粒が流れ落ちた。


でも私は、ちひろを押し返した。


「ハァハァ…ありがとう…もう、大丈夫。」


私は目を瞑り、ちひろの温もりを思い出し気持ちを落ち着かせた


ちひろ「かのん…」

「ちひろ?もう私の事心配しないで?私は大丈夫だから!」


私はわらってみせた。


でも、みんなの顔は悲しそうな顔をしていた。


ちひろ「そうかよ。俺には心配されたくねーのかよ。」

「ちひろ、それは違うの。私はただ、みんなに迷惑をかけたくないだけ。今もこうしてみんなに迷惑をかけてるでしょ?だから、それが嫌なの」

ゆうた「かのんちゃん。それは違うよ。少なくてもここに居るみんなは迷惑なんて1ミリも思ってないよ。」

「みんなは優しいから…私ねお母さんに言われたんだ。あんたみたいな子あの男に捨てられて当然ねって。」

ちひろ「俺は、」

「ちひろ?いいんだ。私もそう思ってるから。私は産まれてきちゃいけなかったみたい。ごめんね。そろそろ帰るね?ゆうたくんも、みつきくんも、ありがとう。」


私は最後に笑顔を作り、立ち上がった。


ちひろ「待てよ。話はまだ終わってねーんだよ。」

みつき「ちひろ!」

「ちひろ?ありがとう。私に幸せを教えてくれて。でもね、これ以上優しくしないで。」

ちひろ「意味わかんねーよ」

「これ以上優しくさられたら、私弱くなっちゃうから…」

ちひろ「は?」

「私は大丈夫だよ。でもちひろ最後にもう一つだけわがまま聞い欲しい…」

ちひろ「…ぁあ。なんだ」

「もう一度でもだけ、抱きしめて…?」


ちひろは、優しく私を包みこんだ。


「ちひろ、ありがとう。大好きだったよ。」


私はちひろの胸の中で呟いた。


ちひろ「俺は今でも大好きだ。」

「え?」

ちひろ「ずっとずっとかのんが大好きだから。」

「ふふふ。ありがとう。」

ちひろ「だから、居なくなるな。ここに居ろ。」


私はそっとちひろから離れた。


「ちひろ、ありがとう。でもね、私は行くよ。もう、何も心配しないで。この温もりがあれば大丈夫だから!」


私は微笑んだ。


ちひろは何も言わなかった。
うんん。
言えなかったんだ。


「だから、ちひろ?私を突き放して」


ちひろ「そんな事…そんな事できる訳ねーだろ!!!」

「やっぱりちひろは優しいね。そんなちひろだからきっとみんなから愛されてるんだろうな。やっぱりちひろは生きるべきだよ。ちひろは必ず助かるよ。生きてね。」


そう言い、私は部屋をあとにした。


そして、工藤さんに連絡をした。


ープルルルル

工藤「大丈夫か?」

「はい。ありがとうございます。工藤さん、例の件ですが…」

工藤「ぁあ。その事か…でも…」

「工藤さん、お願いします。」

工藤「かのんちゃん…」

「その時は、よろしくお願いします。」

工藤「わかった。でもかのんちゃん、一つだけ約束してくれ。自ら命を絶つことだけは何があってもしてはならないよ。それだけは必ず約束して。」

「工藤さん。ありがとうございます。」


私は一方的に電話をきった。


そして、私はちひろと初めて出会ったビルの屋上へ来た。


もう、思い残すことは何もない。

私は柵をこえ、空を見上げた。

空を見上げると雲ひとつなく晴れ渡っていた。
そして、時折心地よい風が吹いていた。

私は空に向かって微笑んだ。

そして、目をつむり1歩踏み出した。