ひなつの茫然とした気持ちとは裏腹に、その頃電話を勢いで切ってしまった波音は、顔を真っ赤にしていた。どうしよう、家に迎えに行ってもいいなんて、まるで恋人同士のデートみたいなことだ、って思ったら落ち着かなくなっちゃった。

津田、変に思ってないかな?家を知らないのは事実だけど、津田に聞いて迎えに行ってもよかったのかな?でも、途中で道に迷ったりなんかしたらカッコ悪いし…。ああ、俺情けないのかな?こんなちょっとのことで動揺してるなんて。津田には絶対に知られたくないよ…。


波音は、急いで、財布をズボンのポケットに入れ、待ち合わせ場所の公園へと向かう。ひなつも、同じ公園へとバッグを持って向かっていた。






「お姉ちゃん、お祭り行こうよー!」


妹の美鈴にせがまれ、中川 林檎は、美鈴のために若干、季節遅れの浴衣を着せていた。


「お姉ちゃんもゆかた、着てー!」


「はいはい、分かったよ。着るから待ってね。」

林檎は浴衣を手早くさっと着ようとして逆に手こずったものの、無事に着終わり、美鈴と共に神社へと向かう。高校生なのに、ちびっこの祭りに行くはめになるなんて、妹がいるとついてないなあ。





「スーパーボール、取ってー!」


ただ今、スーパーボールすくい中の林檎。こういうのは、タイミングなんだよね、きっと。


そうは思ったものの、うまくすくえない。でも、時間制限の中、三つは取れたので、美鈴は喜んでくれた。ただ、林檎は不満気味。


気晴らしに、チョコバナナを美鈴と一緒に食べよう、と思ってチョコバナナを買う列に並ぼうとした時、


「Q. チョコバナナってどのくらい甘いの?
A. キ・ス・ぐ・ら・い!甘いよ、ぜひ食べて!」


意味の分からない宣伝の看板を見つけてしまった。


げ、何これ。サイアク。幼児にこんなもん見せるなよ。悪趣味だ。店員誰だよ。


チョコバナナを買う気は失せ、代わりに店員の顔が見たくて、林檎は行列の始まりのところに行く。
美鈴は、スーパーボールに夢中でチョコバナナには興味がない様子。林檎はチョコバナナの店員がどんなやつだかに興味がある。オヤジ、それとも…。


「いらっしゃいませー!」


歌純だった。まさかの乙女が店員だった。歌純と目が合う。驚いた後、微笑む歌純。他の店員に話をつけ、林檎の元にやって来た。