ひなつは幸せな気持ちを、歌純と託にもらい、浮かれていた、のだが、


「姉ちゃん、電話来てるよ。」


え?弟の良太から家の電話に自分宛の連絡が来ていると聞き、キョトンとする。誰?


「はい、津田 ひなつです。」

「…あ、大島波音です。あのさ、」


大島くん。ひなつの心が急に動揺しだす。
そっか、私みんなとメールアドレスは交換したけど、電話番号は交換してなかったんだ。そしたら大島くんは、昔の連絡網で電話かけてくれたのかな。
ひなつは、そんなことを考えて、話を半分ほど聞いていなかった。


「…でさ、よかったら、行かない?」

やばい、話が全然読めない。どこに行くの?

「あー、それいつだっけ?」


探りを入れる。『それ』は、なんだ。

「もうやってるよ。まだ始まったばかり。」


くそ、全然わかんない。どーしよ。

電話をしながら、頭をフル回転させながら、壁に掛けてある、カレンダーをチェックする。この時期…。


「あ、毎年やってる、秋祭り?」


ひなつたちの家の近くにある神社は、夏の終わった後の、秋のお祭りがある。ひなつも小学生の時に友達や弟と行ったこともある、近所に馴染みのある祭りだ。ただ、割と小さい子が喜ぶ、小規模で簡単なお祭りなのだが。秋祭りに行く高校生は、珍しいと言える。お願い、当たっていて!


「え、そうだけど。話、聞いてた?」


「あ…、いや、半分寝てた。でも立ちながら眠れる超人、津田デス。」

その場しのぎに意味の分からないことを一つ投入しておく。ノリだ。


「はは、まぶたに目、描いてないよね?」


波音が見事にノってくれた。


「あ、忘れてたー!次こそ、完璧に仕上げるでござる。」



はは、期待してるよ、と波音が明るく笑う。



「でさ、秋祭りは、どうする?」


それだ。忘れるところだった。

「うん。行きたい。行く。どこ集合?」


波音とのデートだ、なんてこっそり考えているひなつは、思わず、


「家で待ってたほうがいいの?」

と、波音が迎えに来る想定の話をしてしまう。


「え、迎えに行っていいの?あ、でも俺、津田の家知らないや。近くの公園で待ってるね。…じゃ。」


プツッ。電話は切られた。あれ、私ふられたのかな?告白して、ごめんなさいって言われて落ち込んでる気分。大丈夫かな、私。