「氷山ー、津田、じゃんけんしよ。」


波音がはしゃいでいる。大島くんのはしゃぎ姿は本当に子供みたい。可愛い少年。大島くんは腹踊り、嫌じゃないのかな?
ひなつが気を抜いてそんなことを考えていると、

「波音、持ち株、グーだから。」


え?今なんて…

「…じゃーんけん、」

直前に氷山くんが何をつぶやいたのかはうまく聞き取れなかったけど、氷山くんのアドバイスどおり、痛みが少ないパーでいきます。そしたらたぶん…



「…ぽい!」


「あ、俺負けたー、腹踊りの座、ゲット!」



結果、大島くんが負けた。…たまたまだよね?


氷山くんが同じパーを出すことは痛みのことで予想ついたけど、大島くんが負けて…くれたなんて!感動!


ひなつは、なぜか見当違いに波音が負けてくれたと、感極まっている。


でも、きっと大島くんは最初から腹踊りやりたかったんだよね、だってほら。


「はーらおーどり!は〜らおーどり〜!」


波音の様子を見て、林檎がゲラゲラ笑っている。
波音もとっても笑顔だ。とっても可愛い。



大島くん、すごく楽しそう。よかった、私負けなくて。そっか、氷山くんに感謝だね。


「氷山くん、ありがとうございます。」

「ん?…別に、お礼言われたからってポテト分けてやったりしないぞ。」


もう、そんなのじゃないってば。ひなつは、少し呆れた代わりに無理やり託のポテトを一本奪う。


「あ、コラ。」

「ふーん、だ。」


そんな、ひなつと託の様子を見て複雑な気持ちを抱える人が二人いた。


津田、楽しそう。俺の腹踊りで笑わしたかったんだけどな…。託と何話してるんだろ…。


リンちゃんがひなつちゃんを嫌う気持ちは分からなくもないけど、ひなつちゃんが託と仲よさげなの見ると、少し苦しいな。託はひなつちゃんの事、どう思ってるんだろう。



「歌純、ポテト食べ終わったら、店出て次…」


「あ、私、今日はここまで。家の用事があるから帰るね。」


突然の歌純のリタイア宣言に不機嫌になる林檎。

「リンちゃん、また遊ぼうね。…じゃ。」


颯爽と、歌純は走り去って行く。うっかり、自分の分の代金を置き忘れて。



「ふーん。金欠気味?ちゃんと言えばいいのに。」


林檎に勝手な誤解をされたまま、歌純はこの後、うちで一人泣いていた。託のことで苦しくなったのだ。


そんなことをちっとも知らない、氷山 託。高一。いつも集まるお決まりのメンバーは、全員高校一年生で、小中学校が同じだった五人だ。

高校はそれぞれ別のところに行っていて、託は定時制の高校。林檎と歌純と波音はそれぞれ一般の高校で、ひなつは通信制の高校に行っている。単位制で普段自宅学習なため、遊びには、今の所毎回参加できている。林檎との仲が悪いのもいつものことだが。