それだけでこの二人の不穏さを感じ取った誠は、

「ひゃー、女のトラブルは厄介だし、俺便所で待ってるわ。託、終わったら迎えに来て!」

と、人混みの中に消えていってしまった。


「中川、津田の事何が気にくわないんだよ。」


消えた兄を無視し、珍しく感情的な託。

それを泣きそうな顔して見つめる波音。
波音もこんな場面でどうしたらいいのか未だに分からないでいるのだ。

「あんたに関係ない。」
「じゃ、津田が傷つくこと言うなよ。」

「……」

林檎が黙る。それを見かねて、ついにひなつが、「ごめんなさい。林檎ちゃんに嫌われてるの、ずっと前から知ってた。」


決して自分の悪さを認めない、知らないふりして笑ってたひなつが林檎の目を見て告白する。


「私は、ずっと不登校だった。林檎ちゃんの中学生時代も皆の思い出も知らない。それで話が合わないから避けられてるんだと思ってた。けど……、勉強しないでダラダラ過ごしていたあの頃と今の私は違うから……、だから私は新しく林檎ちゃんとの思い出を……」

「いい加減にして!」


ひなつの言葉を遮り、林檎が本音を溢し始める。


「あたしは自分の時間がなかった。学校に塾に妹の世話に家事の手伝いに、宿題に……。
あんたは真面目じゃないのに、どうして楽しく笑っていられるの?」

林檎は苦しげに顔をしかめて、今にも泣き出しそうで、思わず妹の美鈴がひなつを睨む。

「……、ごめんなさい。私、帰るね。」


「逃げるのかよ。」


託がチャンスをくれたが、それに答えずひなつは神社の出口に小走りで向かう。


「あっ、俺も帰る!」

やっと重たい空気から解放されて、波音もひなつを追いかける。


さらに林檎は頭をかきむしって、
「なんなの?あんなクズいなくなれば……」

「中川。おまえ憎しみ強いな。」
「苦労してるからね。あんな楽な道しか歩んでない子、大嫌い!」

美鈴も真似をして、
「私も波音を奪って、お姉ちゃんを苦しくさせる子、大嫌い!!」

と、そっと林檎の手を握る。


「俺、肝心な時に上手いこと言えないんだよね。ごめん、津田。頼りにならなくて。」