「リンちゃん、美鈴ちゃん。チョコバナナはいかが?」


「みーちゃん、いらなーい!」

こら、林檎は美鈴を叱り、歌純に聞く。

「キスの味って書いたの、歌純なの?」


「いや、先輩。私はまだ、キスの味知らないよ。」

願っていた答えが返って来て、ホッとする林檎。


「よかった、先越されたかと思ったよ。」

「えー?リンちゃんよりは、私モテないよ。」

「よりは、って何だよ。」


後ろから声がする。振り返る歌純。


「あわあぁっ!た、託!」

託と、託の兄、誠がいた。真っ赤になった歌純を見て誠がにやける。

「歌純ちゃん、顔が茹でリンゴみたい。」


「それを言うなら、茹でタコでしょー?」


美鈴がしっかりダメ出しをする。これでも幼稚園の先生にはよく褒められる、優秀なお子様なのだ。


「あ、でもリンちゃんと一緒がいいな、私。」


歌純が元の調子に戻り、林檎に抱きつく。


「もー、歌純ったら。」


林檎は、まんざらでもない様子。と言うかちょっとにやけてる。それを託と美鈴は眺めている。誠はなおいっそう、にやけて、面白そうにしている。


「歌純と中川って、仲良いよな。」


託が思い返したように、ポツリと呟く。


「津田も入れてもらえたらいいんだけど…」



「え、なんか言った?」


林檎が聞き返す。


「いや、美鈴が寂しそうだぞ。」


「みーちゃん、大人だもん。さびしくないもん。」


どこが大人よ、林檎が歌純から離れて美鈴をこづく。美鈴はほおを膨らまして怒る。歌純と誠が笑う。


「あ、波音君だ!」

美鈴が大声で、

「波音くーん!美鈴だよー!!」

と、人混みに向かって呼びかける。


「え、波音?…どこ?」


「あそこ!」

林檎の妹が夢中になって好き好んでいる波音の笑顔が、林檎たちにも見えた。


「あ、本当だ。」

ただ、ひなつの姿も捉えた時、林檎の目が冷たくなる。それは妹も同じだったようで、


「あー!波音君、浮気した〜!」

と、怒って波音の元へ走っていった。


ひなつ、あんた何なの?林檎の心が黒く染まってゆく。胸が痛くなってゆく。


「リンちゃん、大丈夫?」


「大丈夫。歌純、店はいいの?」

あ、そっか。歌純がバイトを思い出し、

「じゃ、皆様、失礼します。リンちゃん、またね。」


歌純が去っていった。誠がふと、

「託、不機嫌な顔やめろよ。」

弟の険しい顔を見て、本人にささやく。


「不機嫌じゃねえし。」

「いや、兄には分かる。お前は、今…腹が減ってイライラしている。」


ふざけんなよ、託がため息をつく。


「あ、中川と託!誠さんも!お久しぶりです!」


そこに、無邪気な笑顔の波音、と

「あ、林檎ちゃんと氷山くん。あれ、誰?」


誠と会ったことのないひなつが、美鈴と共にやってきた。


「君こそ誰だ。名を聞かせてもらおう。」

誠のノリに、


「ははっ、私は津田 ひなつ。高一の者でございます。」


しっかりとノって、自己紹介をするひなつ。


「わざわざバカになるなよ。」


託の言葉に重ねて、


「いや、元からバカでしょ?勉強ほとんどしてないんだから。」

冷たい林檎の声がひなつに伝わる。