誰もいなかった図書室に、規則正しい足音が響く。


それはわたしが床に座り込むところに向かって近づいてくる。


耳に慣れた足音だ。


「月が、きれいですね」


わたしは唐突に、その人に言葉をかけた。


「今はまだ昼間だ」


「……そっか。夜の月にしか使えないのかあ」


目線を合わせるように、彼が、友坂くんがわたしの前に腰を下ろす。


「読んだんだ?」


「うん」


「……ずっと、言いたかった。けれど、僕はきみに好いてもらえる要素が微塵もない。……知ってほしかった。どうせ気づかないと思った、気づいてくれないと思った。知られたくないとも、思った。顔を見ることも叶わなくなってしまうかもしれないから。だから……」


あんな方法でわたしに伝えたんだと、友坂くんが言う。


「あのとき気づいてたら……わたしはこんな後悔を、しないですんだんだね……」


わたしも、伝える勇気なんてなかった。