――……、


どうやら眠ってしまったみたいで、気づけば、辺りは暗くなっていた。


居眠り前の記憶を手繰りよせると、それは本を開いて三頁目で自分が情けなくなる。


席に着いてからすぐの寝落ちだったんだと机の上から上半身を起こせば、肩から何かが滑り落ちた。


「おはよう」


それは、男の子のコートだった。


友坂くんの、コート。


友坂くんが、わたしを見下ろすかたちですぐそばに立っていた。


「……おは、よう。ありがとう」


拾って埃をはらう。


といっても、図書室の明りは点いてなくて、あるのは大きな月のそれだけ。


埃は完璧に払えてるのかどうか……。


手渡したときにぶつかってしまったわたしの手の温度を心配した友坂くんは、再び自分のコートをわたしに羽織らせた。


そうして彼は、外の景色、月を眺める。


「月が綺麗ですね」


「えっ?」


「月が、綺麗ですね」


「あっ、ホントだ。きれいだねー」


唐突に囁かれたそれにわたしが無邪気に頷くと、友坂くんは何故か寂しそうに馬鹿だなあと微笑み、それから目を閉じた。


それきり、幾日が経っても、彼はそのときの寂しい表情の意味を教えてくれることはなかった。