私がプラカップを手に桜庭くんの方に行こうとしたその時。

 桜庭くんが、何かに呼ばれたのか振り返った。

 そして、振り返った桜庭くんに、あの綺麗な女の子が抱きついた。

 私の位置からは桜庭くんの顔は見えない。だけど、細い腕が桜庭くんの背中に回るのも、満面の笑顔で桜庭くんを見上げるその子の顔も、嫌という程良く見えた。

 ……やだ。 嫌だ。

 若菜と武田が一緒に居ることよりも、武田を冷やかす声よりも、桜庭くんが、あの子と2人で居るのが嫌だった。

 あまりの居場所のなさに、私が逃げる様に校門に向かうと、私が来るのを知っていたかのように東海林先輩が立っていた。

「だから言ったでしょ? 他人の男に手を出すなって」

 勝ち誇ったように私に告げて、東海林先輩はグラウンドへ戻って行った。