「ねぇ、とわ!行こうよ」

 ハイテンションの若菜に引き摺られるように、私もベンチまで連れていかれた。

 若菜の差し入れは、試合前にマネージャーの茅ヶ崎さんに渡されていたらしく、戻ってきた選手も、応援していた部員達も若菜の差し入れた小さなプラカップを持っていた。

「コレ、美味い。誰作ったの?」

「武田先輩の彼女らしいっすよ」

「まじで? どの人?」

 美味しいと言う声や、武田を冷やかす声に、私はどんどん居場所が無くなっていく気がして、私は無意識のうちに桜庭くんを探していた。

 桜庭くんは、少し離れたところで1人でスポーツドリンクを飲んでいた。その手に若菜の差し入れのカップも無い。

 ……持って行ってあげようかな。

 目立たないようにしようと思ってはいたものの、若菜と武田が話しているのを見るのもやっぱり辛い。

 それなら、桜庭くんと少し話をしたっていいんじゃないか。 そんな気持ちになっていた。