「……まだなんだ。大事なんだね、とわちゃんの事。大事なとわちゃんに何かあったら……満、どうするかなぁ……?」

 こんな流れでの”何か”が意味する所に目を瞠る。友香さんの笑顔は、全く変わらなかった。

 桜庭くんを見ると心配そうに私を見ていて、目が合ったけれど、その表情から、今の友香さんの声は聞こえていない事が判る。

 戸惑っている私とクスクスと笑う友香さんを見て、桜庭くんが苛立った声音で言う。

「友香、とわから離れろ。階段近過ぎる」

「分かってないね、満。誰のせいでとわちゃんが昨日から散々な目に遭ってるのかなぁ?」

 桜庭くんの声に応える友香さんの声は、楽しげなのに底冷えがする程に冷ややかで、友香さんは私から離れることは無かった。

「最近ね、皆で私を邪魔者みたいにするのよ? お母さんと満のお母さんもこそこそ隠れて話ばかりして。なんで知らないと思うんだろうね?
 なんで千紗は私に男の子なんて紹介するんだろうね?
 満はね、私の4つ上なのよ?大学生だったの……。サッカーなんてしてなかった。どうして……気づかないなんて思うんだろうね?」

 さらに1歩歩を進めた友香さんと、私の爪先は、ふれあいそうな程に近かった。後ずさりした私の踵は……床に触れなくて、手を階段の横に添えたけれど、生憎掴むような場所は無かった。