「残念だけど、事故で死んだのは湊なのよ。あの日、湊なんか迎えに行かなかったらあの道通らなかったのに。事故になんて遭わなかったのに。
 だから、満の代わりに死んだのよね? そうよね? 満」

 友香さんは、あくまでも桜庭くんを満と呼び続けるつもりらしい。話が噛み合わなくても。

「事故の後、目を覚ました友香さんが、湊くんを満さんだと勘違いしたから、一時的に話を合わせただけの事だった筈です」

 友香さんの冷めた瞳が、私を見る。

「……つまんない。ほとんど全部知ってるし。よっぽど好きなんだ。満のことぜーんぶ話す位」

 突然、ドンッと友香さんに突き飛ばされて、私はよろめいた。

 踏みとどまった私の背後に、階段が迫っている。友香さんは距離を詰めて、間近に私を覗き込んできた。

「私ね、湊のこと大っ嫌いなの。2回も私の満を殺して」

「……2回?」

「そうよ? 皆で私を頭がおかしいみたいに扱って。皆で私の満を殺したの。だからね、皆が満を殺したことを忘れないように、毎年ちゃーんと、湊にもお経あげてもらうのよ?」

「友香」

「近づかないで。ここから落としちゃうよ? 大好きなとわちゃん。この位じゃ死なないけど、結構痛いよね?」

 踏み出した桜庭くんを制した友香さんは、フフっとようやく、本当に楽しそうに笑った。