でも、桜庭くんは、最近は家に帰っていないと私に話してくれていた。ずっと学校帰りは一緒、家に帰ってからもメールや電話がある。昨日もずっと……、私が寝るまで電話に付き合っていてくれた。
この半年間、友香さんに比べたらずっと短いかもしれないけれど、私も桜庭くんと一緒に過ごしてきた。だから、友香さんと桜庭くんのどちらを信じるのかと言われたら、私は、一切迷うことなんてない。
桜庭くんが満さんの代わりを辞めようとしているなら……、私がそれを認める訳には行かない。私は、桜庭くんを待ってるって決めたんだから。
「判らないです。私が好きなのは、湊くんです。満さんじゃありません」
私の好きな人の名前は、桜庭 湊だ。友香さんの話す人とは、違う人だ。
私の答えに、友香さんは不満げな眼差しをして、微かに口を尖らせた。
「とわちゃんって、意外と物分り悪いのね。もっと賢い子なのかと思ってた。あのね、さっきも言ったけど湊は死んでるの」
「違います」
「違わない。湊はね、3年前に死んだのよ?」
「事故で亡くなったのは、運転していた満さんです。湊くんじゃありません」
フフっと友香さんが笑う。その笑い声に、聞き覚えがあった。
……あの、動画だ。心の中でカチリと嵌る。
この人だ。私の書を切り裂いたのは、間違いなくこの人だ。
気づいた事実に、笑顔の向こうの狂気が見えて、心臓がすくみ上がる気がした。