私は黙ってカードを辻井くんに差し出す。

「あ、これお殿様だね」

「お殿様?」

「うん。あのたぬき山の城主」

辻井くんが指差す方向には、たぬき山。

「え? あのお城のお殿様って、こんな顔だったの?」

「んー。僕も実際会ったことないからわかんないけど。図書室にさ、うちの街の歴史みたいな本があって、そこに肖像画があったんだよね、殿様の」

「そんな本まで見て描いてたの?」

「百五十種類描かなきゃいけなかったからさ、僕もだんだん煮詰まっちゃって。それで、色んな種類の本を見てアイデアもらってたんだよ」

びっくりした。辻井くんがそんなに頑張っていたなんて。

絵が好きだから、簡単にサクッと描いていたと思っていた自分が恥ずかしくなって、私は顔を上げられなくなってしまっていた。

「中には有名な絵をマネしたイラストもあるんだけどね、こんなんとか」

両手を頬につけ、「ホーッ」と口をホの字にする辻井くん。

「それは、私もわかる」

クスリ、と微笑むと、辻井くんも両手を外して笑顔になった。

「僕、自分の絵を見てみんなが笑顔になってくれるのが夢なんだ。だから、白石さんにもぜひ、このお殿様の絵を完成版で見て、笑ってほしいな」

言葉に詰まった私を見て、何かを感じ取ったのだろう。

辻井くんは私の返事を聞かずに、立ち上がって去ってしまった。

「笑顔に、か……」

辻井くんの思いとは裏腹に、笑顔とは正反対の顔をしている私。