咲子は深々と頭を下げた。
涙がポトポト止まらない。
怖くて面倒くさい人だけれど、私のたった一人のお父さん。
愛していないはずがない。


「そして、お父様…
26年間、お世話になりました。
こんなおっちょこちょいの私を大切に育ててくれて、本当にありがとうございます。

そして、これからもどうぞよろしくお願いします」


涙声の挨拶は、この部屋の雰囲気を悲しくさせた。
だからなのか、父は何も言わなかった。
分かったとも出て行けとも何も言わずに、ただ俯いている。

咲子はそんな父にもう一度お辞儀をして、静かに部屋から出て行った。