咲子は、結婚式の前日、久しぶりに実家へ帰った。
いまだに結婚を認めない宗一に今の自分の思いを伝えるために。


「お父様、明日の結婚式に参列してはもらえないですか?」


書斎で難しい顔をしながら書物を読んでいる宗一は、咲子の存在に気付かないふりをする。
でも、その場所で立ち尽くす咲子を見て、宗一は小さく息を吐いた。

「おじい様が勝手にやっている事だ。
私が何と言おうとあの人は結婚式を決行するのだろう?
娘の父親の言う事なんか全く聞かずにな」


咲子は切なくて涙がこみ上げる。
でも、今日は、穏やかに父と話がしたい。
この名家に生まれ落ちた自分の運命にちゃんと向き合いながら。


「お父様…
私は、お父様の事も、この家に生まれてしまった事も、何も恨んでいません。
でも、一つだけ、お父様に私の思いを知ってほしくて…

映司さんと知り合うまでは、自分の存在価値も自分にとっての幸せも全く何も見えなくて、特に幸せに関しては夢の中の出来事だと思っていました。

でも、そんな私が、自分の手で本物の幸せを掴んだんです。
生きている事ってこんなに素晴らしいんだって、26歳になって初めて気づきました。

お父様、いつかは、私と映司さんの結婚を認めてください。
幸せになった私を見定めてからで構いません。

いつか、いつの日か、私の夫となる映司さんを許してください」