「林 桃華です。えーっと、凄い物忘れが激しくて、えーっと、」
第一印象はとにかく可愛いだった。
林 桃華は、山田南高等学校2-1に転入してきた誰に聞いても十中八九、可愛いと応えるような女の子だった。
透き通るような、水でできているような白い肌に丸顔で目がとにかくでかくて、以外にキリッとした眉毛。身長は、高校生にしては低い140cmくらい。細い腕に細い足。ワイシャツの袖はめくってあり、背景の黒板と比べて、腕の白さと、細さがよく分かる。また、声が女子にしては低くぶりっ子しない喋り方等と、皆が納得するような可愛い女子だった。

だかしかし、可愛い子には欠点がある。
「物忘れが激しいのは、若年性アルツハイマーって言う、なんか、変な病気?っぽいやつだから、」
皆がみんな一瞬黙って顔を見合わせた。
そしてざわつき始めた。
え?何言ってんのこいつ、という顔をしてる人もいた。
確かに急にそんなことを言われて信じる人もいないだろうし、今思えば僕もその1人だった。皆、半信半疑だった。
しかし、彼女がポケットから取り出した1枚の紙でクラス中静まり返った。
そこには
【若年性アルツハイマー診断書 初期症状】
と書いてあった。その横には、医師の印が押してあった。
彼女は
「まぁ、こんな感じ。皆が疑う気持ちも分からなくはない、です。私も宣告された時は疑いました。若年性アルツハイマーのせいで前の学校ではいじめられてました。名前とかもそんな覚えられないし、てか、卒業するまでに皆のこと忘れると思います。でも、物好きの人は仲良くしてねっ!!!」
と、満面の笑みで自己紹介を終えた。
みんなは静まり返って。誰一人、林 桃華と目を合わせようとしない。
隣にいる先生は困惑しきってる。今年一年目の新米教師に、この状況をどうにかすることはまず無理だ。
しょうがないから僕が
「学級委員長の市川 幸 です。若年性アルツハイマーという病気ですけど、このクラスに溶け込めるように、サポートしますね。」
と笑顔で言った。これで、みんなからこんな奴にサポートしてやるなんて優しい。お人好し。などと言われ。林 桃華にも、前の学校ではこんな私に話しかけてくれる人なんていなかった。と思うだろう。しかも、担任を助けてまた先生から僕に対する株が上がった。
一石二鳥だ。
担任が慌てて
「そ、そうね!みんなもサポートしましょう!さ、さぁ席はどこがいいかしらね、」
「あら、神山さんの隣空いてるわね、そこでいいかしら??あと、神山さん学校案内宜しくできるかしら?」
神山美希は、このクラス一の天然バカ。恥じながら僕の幼馴染でもある。美希は天然だが、性格がいい事と、持ち前のスタイルと美貌で男子からも女子からも人気は耐えない。
だが、その性格のいい美希も今回ばかりは苦笑い。
「あ!神山さん!大丈夫だよ!この病気は感染性じゃないから移ることはないよ!!」
とケラケラ笑いながら林 桃華が言ってきた。
いや、バカかよ。美希が心配してんのはそこじゃねーよ。
「え?、そうなのかぁぁ!ならwelcomeだよ!神山美希って言います!よろしくお願いしやぁぁっす!!」
お前もバカかよ。心配すんのはそこじゃねーだろ。この若年性アルツハイマーって言うめんどくさい病気持ってる奴を世話するとか、クラスの餌食になるだろ。物をすぐ忘れて、下手したら名前も覚えてもらえねーんだから。こんなやつと一緒いたら、美希が嫌われるだけだ。
「え、待ってください。席だったら、石井の隣空いてるじゃないですか。」
石井がこちらを横目で睨んだ。
そんなの、美希が嫌われることより痛くも痒くもない。
「ダメよ~石井さんの隣は雄大君なんだから!学校来た時に席がなくなってたら嫌でしょ~よ??それとも市川君は、神山さんの隣が林さんでなにか不都合でもあるの??」
「い、いえ別に。」
ここで引き下がら無かったら、クラスの支持率も保てないし、優しいやつから最低なクズ野郎になってしまう。
「はい、じゃぁ、決まりね!神山さんよろしくね」
「は~い」
と美希が間抜けな声で返事をした途端ホームルーム終わりのチャイムがなり、担任が出ていった。
すると、石井がよってきて僕の胸ぐらを掴んで
「ねぇ、なんなのお前、あんな奴の世話とかマジでごめんなんだけど、彼女の美希が助かればいいと思ってんの??舐めてんじゃねーよ」
石井の声はクラス中に響き渡った。「確かに」「さっきのは酷かったね」という声が囁かれた。
「いや、違うんだよ。僕はみんなでサポート出来たらと思って。押し付けたわけじゃないんだ。もし、そうゆう風に感じたら本当にごめん。」
石井は僕のことを突き放し、僕はオーバーにあたかも自分は悪くないように床に転げてみせた。
そうするとみきが駆け寄ってきて
「大丈夫??幸??しっかりして?」
「ねぇ、あんな!!危ないじゃない!幸はみんなでサポートしよって思ったから言っただけなのに、変な言いがかりでオマケに突き飛ばして、最低」
あんなとは、石井の事だ。
そしたら、みんなも「幸痛そう」「確かに、言われてみれば…」「石井最低だわ」「あんなやめなよ」という声が続々あがってくる。
さすが美希は人気者なだけある。
そこにすかさず
「美希、大丈夫だよ、そこまで言わなくても。石井だって、今は色々大変なんだ。僕が悪いよ」
石井は、傷害事件や、警察沙汰も少なくはない。こういう時は相手を威嚇する
そうしたら、
「ふざけんな、いい子ぶんのもいい加減にしろ!!?」
とキレてくる。だがしかし、同情されるのは、美希が着いているこっち側だから、
クラスメイトは、
「石井また傷害事件おこすの?」
「これで何回目?」
「美希と幸可哀想。」
と皆が口々に言う。
石井はイラついた様子で教室の後ろの戸を蹴って教室から出ていった。
僕が起き上がろうとすると、美希が手伝ってくれた。
「どこか、痛むとこはない?」
正直どこも痛くないけど、
「あぁ、少しあばらが痛むけど、なんともないよ。」
「ほんとに?保健室行かなくても大丈夫?」
「うん。ゴメンな。有難う。」
美希は黙って頷き、自分の席に着いた。
僕も席に戻ろうとした時に、林 桃華と目が合った。呆然と立ち尽くし、でかい目で僕を睨んでいるように見えた。
「桃華ちゃん!座りなよ!授業始まっちゃうよ~??」
美希が言うと
「うん!!」
と笑顔で席に着いた。
睨んでいたのは気のせいだろう。
1限目のチャイムがなると同時に
「起立。きょーつけ。礼」
と日直の美希の声が響き渡る。
美希は林桃華と席をくっつけて、古文の教科書を一緒に見ている。
石井あんなは1限目が終わっても教室に戻ってこなかった。