「私には、生きていて楽しいことなんてなかったです。」


私は綺麗な夕日を見ながら呟いた。


「そんなの、知らないんです。」



何にもいいことなんてなかった。最近は、心から笑ったことなんかない。


「美生。ちょっとついてきて欲しいとこがあるんだけど。」


彼は、私にズンズンと近づいてきて、何をするのかと思えば、手を差し出してきた。


「ん。」


差し出された手。少し骨ばったその手を、私はいつのまにか掴んでいた。


掴んだ瞬間、強く引っ張られて屋上の淵から引き離された。



夕日に照らされた彼の顔が、なぜか輝いて見えた。


「それ、知りたい?」


含みのある表情。胸が高鳴った。

彼なら、教えてくれるんだろうか。
私の知らない感情を。


「……知りたい」


私がそう答えると、彼の瞳が嬉しそうに輝いた。