彼は、本当に私を止めなかった。

私は再び屋上の淵に立った。


これで本当に最後だ。


「ねぇ、最後に一つだけいい?」


彼が後ろから声をかけてきた。


「止めないって言ったじゃないですか。」

「止めないよ。ちょっと聞きたいだけ。」


後ろを振り向くと、彼は私の目をじっと見た。
真剣な表情だった。


「名前は?」


私の名前。意識していなかった。そういえば、いじめが始まってからは、ブスとしか呼ばれてこなかったんだ。

私は、自分の名前を久しぶりに口に出した。



「…逢坂美生(おうさかみお)。」


「美しく生きる」で、美生。自分の名前と現状が真逆すぎて笑えてくるが。


「美生。死ぬの、明日にしない?」


彼は笑っていなかった。真っ直ぐ、私だけを見つめていた。


「止めないって、言った。」

「止めてない。これは、ただの提案だから!」


これは、引き止めていると解釈していいのだろうか。よくわからないが。