「僕は国に貢献出来るような人間になりたいです」

「素敵ですね。どのような事をされるつもりでしょう」

「軍か警察へ入るつもりです」

「そう、ですか」


市助は何か言ってはいけない言葉を発してしまったのではないかと不安になる。だがそれを朔子へ聞く事も出来ない。

ただほんの一瞬の朔子の表情。ある種では、笑顔よりも忘れる事は出来ないものとなったに違いないだろう。

以降、市助は朔子には笑顔でいてもらいたいという一心から、この話に触れる事は二度としないことを誓った。

丁度その頃からだろうか。市助の中には朔子に対する気持ちが変わりだしていた。

女性の友人としてではなく、一人の愛する女性としてなのだろう。

胸の高鳴りが治まらないにも関わらず、市助はその気持ちを確信へと繋げる事が出来ずにいた。

高鳴りはただの偶然でありそれは朔子が原因だからなのではない。そう思い込ませていたのだ。

有耶無耶な気持ちなまま、市助は朔子と出会う事を繰り返す。そうやって市助の日々は過ぎて行く。