「田中市助と言います。朔子さんとは素敵な名前ですね」

「有難うございます。私、貴方の事が気に入りました。お友達になって下さらないかしら」


突然の申し出に市助は隠していた赤面を遂に表に出す羽目に。自分みたいな人間が、このような綺麗な女性と親しくして良いものなのか。

悩めば悩む程に思考が破壊されてしまいそうな勢いであった。


「市助さん、どうかされましたか。嫌なら構わないのですよ」

「いいえ。自分で良ければその」


名前を呼ばれた事により更に思考が破壊されるような気分に陥る。気付けば申し出を受け入れていたのであった。


朔子は奇怪な様子を見せる市助に近付き、そっと背伸びをする。既に一連の記憶を消してしまいかけていた市助。その行動だけははっきりと記憶をしていた。


「やはり、そうでしたのね」

「どうされたのですか」


朔子はまた微笑むと手にした物を市助に見せる。一枚の桃色の花弁。数少なくなった樹についていた物が落ちたのだろう。


「貴方の髪にこれが降りた瞬間から、貴方はおかしくなりました。
なのでこの花弁を取れば、元に戻って下さるのではないかと思いまして」


市助はその朔子の発言にただただ唖然とするばかり。