この場所で一体何をしているのだろうか。市助はぼんやりとそんな事を頭では思い浮かべていた。

都合よく風がふわりと音を立てて吹く。瞬間、地に落ちた花弁は再び小さく宙を舞う。

数少なくなった樹にしがみついていた花弁も、風の勢いに呑まれて落ちてゆく。一歩、また一歩と歩みを進める市助。

そんな中で、次第に女の姿もはっきりと示される。そして気付く事になる。女が涙を流していると言う事に。

市助はただその姿に戸惑いを募らせていた。見過ごすと言う選択肢もある。恐らくはそれは一番の得策であろう。

全てを見なかった事にすれば、相手にとって良い場合もあるのだ。しかし市助はそうする事へ抵抗を抱いていたからなのか、思わず女に声をかけてしまう事となる。


「何故泣いているのですか」


遠回しに聞くよりも下手に平静を装うよりも、真直ぐに聞く事の方が一番相手を傷つけずに済む方法なのかもしれない。それらを思った市助の一言であった。


「見ていらしたのですか」


女は流れた雫を拭い、赤い瞳で驚いたかのように言う。