「あ、朝から…講義のある日は、だいたい…」

彼の発する言葉の一つ一つ…に、胸の鼓動が早鐘を打つ…

「…そ…か…。」

「……」
《それが…、何か…っ?》

と、微かに首を傾げる瑞希に…

「この電車、朝は混むし…時間、合わせるよ。少しは、盾になれるでしょ?」

「っえ? でも、それは…っ!」

悠の提案に、すぐさま…言葉を遮る瑞希…すぐに首を左右に振り…

「この前みたいに痴漢に遭いたくないでしょ?」

「…そ、それは…そうだけど…でも…っ」

「また、ああいう目に遭っても…拒絶したり…大声出したり…、出来る?」

「…それは…っ!」
《…で…、出来ないかも…っ?

身体、押さえつけられて…身動き、取れなかったし…。

声を出す…なんてこと…、怖くて、到底ムリだっ!

正直、電車乗るのでさえ…イヤなのに…っ》

「そういう遠慮いらない。目の前で、ああいうことする奴が嫌いなだけだから…」

先程とは違い…、またもや…固い表情をしてみせる悠…

でも…

「鷺森さんとは、好きな本、同じだし…。読んだ本の感想…言い合えるじゃない?
それでいいし…」

「…でも…っ」
《本当に、いいのかな?

また、あの日みたいに痴漢に遭うのは、嫌だ…

ありがたいことだけれど…

ホントに、甘えてしまってもいいのかな…?


成宮くんも、そぅ言ってくれているんだし…っ》

と、言葉を濁している瑞希に、悠は深いため息を1つついた…

それを目の当たりにし…、機嫌が悪くなってしまっているのは、見て取れる…

「じゃ、お願い…しようかな?」

「うん。」


そぅ…、言ったきり…悠は、再び…小説に視線を落とし始めた…

その、端正な顔立ちに…瑞希の胸の鼓動が高まった…


「……っ」
《…綺麗な顔立ち…、

男の人なのに…、何でこんなに綺麗なのかな…?


彼のこと…、もっと…知りたい…》

と、彼の表情を盗み見ている…彼に、気づかれないように…

彼の…その首元…、綺麗な鎖骨部分…シャツで見え隠れしたが…微かに紅い内出血のようなあとが見え隠れしているのを目にした…

「……っ」
《首筋に…、なんのあとだろ…?》




彼との出逢いは、私の人生の全てを変えた…

それは、今までの知識や経験なんてモノは、なんの役にも立たないくらい…


私の全てを塗り替えていくほどの…

傷みと…、愛情を教えてくれた…と、言っても…。。言い過ぎではないくらいのモノだった…