〈shoat break 五條の初恋〉

〜side 五條〜

送ってしまった。
ついに、言ってしまった。
こういう時に、なんで自分は語彙力がこんなになくて文章を書くのも下手くそなのか、と自分を呪いたくなる。
俺、五條雅明は人生初の恋をしている。
相手は、1年の時に同じクラスだった浅羽莉亜。
浅羽と俺は今までずっと友達だったし、いきなりこんなことを送るのも変かなーとは思った。
でも、言うなら今だという気がした。
……まぁ、気ではあるんだけど。



あれは、1年前のことだった。
浅羽が、俺の好きなゲームのラバーストラップを筆箱につけていたのを見た俺は、入学式初日に浅羽に話しかけた。その時は下心なんかなかった。

「それ、あれだよな。虹鬼の」

虹鬼とは、当時大人気のフリーホラーゲームのことだ。お世辞にもかわいいとはいえない鬼のようななにかを、ひたすら追いかけ回すゲームである。
だが、やっぱり女子に声をかけるのは勇気のいることだった。それなりに声は震えていたと思う。

「……知ってるの?」

その時、浅羽がやけに俺のことを冷たい目で見てきたことは今でもはっきりと覚えている。

「おう。てかさ、ホラゲー好きなの?」

話すのに慣れてきた俺は、その時からやたらペラペラ喋っていた記憶がある。

「えっ?……あれとか、これとかやったことあるけど……」

浅羽が割と有名なホラゲーの名前を次々とあげていく。偶然にも、俺はその作品は全部やったことがあつた。

「マジか、俺ほとんど全クリしてるわ」

「本当!?」

浅羽の顔が、その言葉を発した時やたら輝いていたのは、浅羽が本当にホラゲーが好きで、でも語れる仲間がいなかったからというのを後から聞いた。今では、俺のことをちゃんと友達だと思ってくれてるようだ。嬉しいけど、少しだけ悲しい。

そこから俺は、どんどん浅羽に惚れ込んでいった。演劇部で浅羽が演じる王子様と、俺に見せる浅羽のきらきらした顔の二面性や、何事にも一生懸命で、無関係の俺まで引っ張ってくれるようなリーダーシップに、基本ズボラで面倒くさがり屋の俺は惹かれていったのだ。でもその時は、まだ自覚がなかった。

高1最後の日。
俺が呼び出して、浅羽と少しだけ話をした。
俺はシステムエンジニアになっていろいろなゲームの開発に関わることが夢だが、浅羽は演劇を極めていきたい、という希望があるようで、俺は理系、浅羽は文系を選んだ。つまり、必然的に俺達は来年同じクラスにはなれなくなってしまったのだ。それがなんだか猛烈に悲しくて、俺は浅羽を呼び出してコーヒーショップで少しだけ話をした。

「来てくれて、ありがとう」

なんだか入学式の日に戻ったかのように、俺の声はまぁまぁ震えていたと思う。

「うん。どうしたの?」

浅羽は俺が浅羽をわざわざ呼び出して話をしようとしていることに純粋に疑問を抱いているようだった。

「……俺らさ、来年クラスバラバラになっちゃうじゃん」

なぜか、すごく泣きそうだった。俺は昔から情のない奴だから男子からは「ノリのいい奴だなー」と好かれていても、女子からは割と嫌われていた。そんな俺の人生の中で、浅羽は唯一の女友達だったのだ。同性の友達ならいくらでもいるはずなのに、すごく寂しかった。

「……うん」

浅羽も、ためらいを抱いている様子だった。俺と同じように離れ離れになるのが嫌なのか、それ以外に別に考えていることがあるのかはその時はまだわからなかった。

「バラバラになっても、まだ友達でいような」

「!!……うん!!」

浅羽は、俺が思った以上に元気のある返事を返してくれた。浅羽は俺のことをちゃんと友達だと思ってくれてるんだな、嬉しいな、という思いでその日は家に帰った。

家に帰って自分の部屋に入った途端、なぜか喪失感とも虚無感とも言い切れないようなもやもやした感情が込み上げてきた。

浅羽が俺に見せた笑顔。
演劇をしているときの、真剣な浅羽。
俺と趣味の話をしているときの、楽しそうな浅羽。

その全てがーーー

(…………俺、まさか)

ーーー大好きだったんだな、俺は。

(……俺、浅羽のことが好きなんだ)

これが俺の、人生初の恋だった。