お父さんの部屋を出た私は、自室を目指して廊下を歩いていた。
昨日のバルコニーに差し掛かるところで、足を止める。
楓斗、今日もいるのかな。
流石に夜遅いし、いないと思うけど。
ちらりとカーテンの隙間から外を覗くと、見覚えのある後ろ姿が見えた。
……いた。
昨日の夜と変わらず、手すりに寄りかかって空を見上げる楓斗。
考える間もなく、私は咄嗟に窓をガラリと開けて声をかけていた。
「楓斗…っ」
気が急いていたのかもしれない。
想定よりも声が大きくなって、その声に楓斗が勢いよく振り向く。
びっくりした顔をしていて、また珍しい楓斗の姿が見られた、と少しだけ胸が弾んだ。
「……なんだ、お前か。驚かせんなよ」
楓斗は眉間に皺を寄せて、はあ、とため息をついた。
多分、迷惑がってはいないと思うけど……
どうなんだろう。
私がそう思いたいだけかもしれない。