風か何かで開いたのか、突き当たりの扉から部屋が見える。
扉の先には、ソファーやテレビが備えられた、10畳余りのゆとりある空間が広がっていた。
共用スペースなんだろう、リビングのようなつくりになっている。
香りの元は、食堂と見受けられる奥の部屋からだった。
好奇心から、中を覗いてみる。
食堂の奥のキッチン。
背の高い誰かがこっちに背を向けて立っている。
180前後はありそう。
ぐつぐつ煮えた鍋。食材を切る小気味良い音。
律動的で心地いい。
火を止めた。出来上がりを知らせる合図。
皿に盛る。添え物が控えめに映えた。
出来上がった料理を運ぼうと振り返った人物と目が合って……
「……あれ、君は…」
一瞬、隠れる場所を探した。
けど、そういえば隠れる必要ないんだった…。