「何か、用?」


「…理事長室ってどこですか?」


「……ん」



ちょうどいい機会だとばかりに目的地を聞くと、彼は一点を指差した。


その先に目を向ければ、少し離れた先に建物があった。


「あそこ、4階」


「……あ、ありがとうございます」



こんなに近くにあったとは。


ここで立ち往生していたことも、決して無駄ではなかったらしい。


一瞬忘れかけていたお礼を慌てて言って、立ち上がる。



だけど。


背を向けて行きかけた私の手を再び掴んだ彼は、一言。



「……お腹、空いた…」


ギュルル、と唸る腹の虫。



……大変だ。


空腹はすごく、すごく辛い。


それは由々しき事態だと、キャリーケースを開けて、中の半分を占めていたある物を取り出す。



「お腹、空いたら食べないと」