5人の王子とお姫様!




麗らかな5月。


高校にも慣れて、ごく普通の生活を送っていた。



そんなゴールデンウィークのある日。


それは突然やって来た。




「あーまーねー!ちょっと来てぇー!」



自室のベッドに寝転んで、山椒を食べ漁りながら読書中。


1階にいるはずなのに、部屋まで響いてくるお母さんの大声に呼ばれた。


ご近所さん、「またか」とか思ってないかな…。



仕方なしに部屋を出て、軽く耳を塞ぎながら階段を下りた。




リビングに入ると、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいる母の姿。


たった今、大声を出した張本人とは到底、思えない。


とりあえずは近所に謝りに回らなくて済みそうなレベルらしくてホッとした。



「なに?」


「あ、来たわね!」





後ろから声を掛けると、ルン♪と付属しそうな声を弾ませて、手にしていたカップを受け皿に置いた。


いつになく神妙な顔つきになったから、一体何だと、向かいのソファーに座って珍しく私も真面目に聞く体制に入る。



「実はね……」


「うん」



ごくっと喉を鳴らすと、目の前の人物はニッコリと笑みをたたえて言った。




「転校してもらいます♪」


「……え」


あくまで上品に、けど子供みたいにアハハと笑うお母さん。



……うん、転校。


転校、か……



転校したら学校が変わる。


学校が変われば環境も変わる。


環境が変わったら、ええっと……どうなるんだろう。



どうでもいいことを考え出した私を見越してか、「天音?」と威圧的なお母さんの声がかかる。



……どうやら、理由は聞いておいた方がいいらしい。





熱い視線が突き刺さる中、小さくため息を吐いた。



「なんで?」


「そこよ!」


よくぞ聞いてくれた!とでも言うように、横に置いてあるファイルから何かのパンフレットを取り出した。



そしてバンっとテーブルに置く。



テーブル、壊れないかな。


……なんてことを考えている私に、お母さんは構わず話し出した。


横槍を入れる気すらもう無いらしい。




「叔母さん、知ってるでしょ?」


「…ああ、美里叔母さんね」



美里(みり)叔母さんはお母さんの妹で、30代半ばのお母さんとは3歳違いの姉妹。



小さい頃に何度か遊んでもらったことがあるけど、子供ながらに「異常だ」と思えてしまうような苦い記憶しかない。


とにかく、あの頃は振り回された。


思わず顔をしかめて身震いする。



「で、その美里が理事長を務める学校がこれなんだけど…」





さっきのパンフレットを私に読むように促す。


斜め上からそれを見て、思わずギョッと目を見開いた。




『東明高等学園』
(とうめいこうとうがくえん)



パンフレットと格闘すること数秒。


チラ、チラとお母さんとパンフレットを交互に、2度見、3度見する。


視線が定まらない。



「…叔母さんの学校って、確か……男子校……」


「今年から共学になったのよ」


「……そうなんだ…」



意を決して発した言葉だけど、返しを聞いて途端に冷静になった。


分かれば別に何てこともない。


とりあえず納得といった感じで、ソファーに深く座り直す。



「だけどね、困ったことがあるの」


「なに?」



首を傾げて見れば、お母さんは頬に手をついてため息を漏らす。


意外と訳ありのようで、きちんと話は聞いた方がいいらしい。





「記念すべき共学1年目なのに、女子の入学者が現状ゼロなんですって」


「……え、もしかして不良こ…」


「違います」



ピシャリと払われて、押し黙る。


ほんのちょっとの冗談ですら、今のお母さんには通じないらしい。



「東明学園はね、他県でも有名な進学校なのよ。中、高、大と別れてるんだけど、将来性のある人間を育む方針を徹底している分、試験問題も超難関で…」



一つ一つ、当然のようの説明するお母さんには悪いと思うけど……


その話、今初めて知った。



……男子校なんて、ただ興味がなかったからなんだけど。



「美里の学校ね、共学になってから新しい受験基準が儲けられたのよ。

“イケメン目当ての不真面目な女子は即落第 面接で判断”…ってね。
もちろん、美里が作ったんだけど」


……それはすごい。





基準がかなりズレている気がしなくもないけど。


日本中どこを探しても、勉学に全くもって関係ないそんな基準を設ける学校は他にないだろう。



「共学にもなったばかりだし、外部からの受験数が少ないのはまあ、分からなくはないけどね……全員落ちたのよ!?」



……更にすごいの上がある場合、なんて言えばいいんだろう。


ええっと……



と、意識がまた別の方向に行きかけたところで、目にした般若。


鬼のような形相で自分のことのように憤慨するお母さんの姿に、一瞬で現実に戻された。


今下手なことをしたら飛び火しかねない。



背をしゃんと正して、「ちゃんと聞いてますよ」というふうに装った。


そんな私の空気を読んだ行動にも何のその。



「男目当ての不真面目女子たちめ…」


「……」



お母さんの言葉に目を見張った。