夏休み。


部活のない休みで、勉強に励む毎日だった。

千尋は毎日学校に行き、圭太もたまに登校しているようだった。


ある日、千尋が学校から塾へ行こうと下駄箱へ向かうと、後ろから圭太と隣のクラスの男子がやって来た。
どうやら帰る時間が被ったようだ。


「今から帰るん?」

「うん」

そんな会話をして千尋たちは、自転車置場へ足を進める。

きっと、2人だけだったら圭太は、すぐ逃げちゃうやろうな。隣のクラスの男子に大感謝。ほんまにありがたい。

自転車を進める。

前に男2人、後ろに千尋が付いていくという形だった。

T字路に差し掛かった。車が、千尋たちが通り過ぎるのを待っている。

…あ。


礼をした。圭太が。待っていてくれた車に。


なんなん。いっつも他人に全然興味なさげで常識もないような素振りしてんのに。



なんなん、優しいんやん。



…そんな些細なこと?と思うかも知れないが、千尋は当然のことができる人が大好きだった。


ニヤニヤしてまう…



そうこうしている間に交差点が現れた。

圭太は右、隣のクラスの男子は左へ向かう。
千尋の家は右に、塾は左にあった。

千尋は塾に行く予定だったので、当然のように左へ向かい、圭太とは別れ、隣のクラスの男子と仲良く帰ったのだった。


…だがこの選択は、千尋を後悔の渦へと導くことになる。

圭太と一緒に帰れる、絶好の、一生にたった一度のスーパーミラクルハイパーレアなチャンスを、千尋はアホのようにすんなりと手放したのだった。