4月上旬。

千尋は高校三年生になった。
今年は受験だ。
だが、みんな部活はまだ引退していなかった。

千尋は女子サッカー部で、引退は五月だった。

桜はもうピンクの服に飽きたようで、早速衣替えしようとしている。
その日も、千尋は学校が終わって部活に行った。
その日のメニューはミニゲームと筋トレだった。
ミニゲームで見事点数を決めて機嫌が良い春と、見事に点数を決められてあからさまに沈んでいる実加に挟まれて、特にこれと言った活躍もなかった千尋は腹筋を始めた。

千尋達がいつも腹筋をする場所は、グラウンドを見渡せる所にある。
夜遅くになると、綺麗な星空が広いグラウンドに蓋をする。学校は台地の上にあるので、見晴らしがとても良く、星もたくさん見える。

千尋は、夜のグラウンドが好きだ。

今日もいつものように、千尋が空が美しいと呟き、春と実加がそれを潔くスルーするというお決まりのやりとりが行われた。

「…あ」

ボールが転がって来た。男子サッカー部のボールだ。

「ごめん」

そう言ってボールを取りに来たのは、今年初めて千尋と同じクラスになった圭太だった。

「あいよ」

私は立ち上がり、陸上部が横切らないか気にしながらボールを蹴り返した。

「どもー」


あ、笑った…



…かわい。

千尋は素直にそう思った。


…いやでもありがとうって言えよな。どうもじゃなくて。

とも思った。

千尋は元のように座った。春と実加が両サイドで目をまん丸にしている。

「え?なにその目」

「…あんた、圭太かわいいって正気!?あいつブスで有名ちゃうん!」
と春が叫んだ。

いや、叫ぶなや…

「自分でもブスをネタにしてるくらいやで?」
実加も驚いている。

「…って、え、聞こえとった?言ったつもりなかってんけど」
千尋は真顔で焦ることもなくそんな事を言った。別に恋したわけではないから、なにも焦る必要などない。

「まーあれや、私のかわいいかっこいいの基準は7割性格やでな、顔は関係ないねん。でも普通に圭太かわいい顔してると思うけど。目くりくりやし。よう見てみ」

「え、無理カレイにしか見えやん」

「凛失礼やなー。言ってもフグやろ」

「…え、ごめん誰の話?」

「うんさっきあなたがかわいいって言った圭太くんですけど」

千尋は他の人と顔の評価基準がかなりずれているようだ。千尋には圭太は全くブスには見えなかった。
カレイというより、お人形さんみたい。
本気でそんなことを思っていた。すごい頭の持ち主である。笑

「よし、腹筋終わり」

千尋がそう言うとすぐに、先生から集合の合図がかかった。

今日も疲れたなー。帰ったら勉強か。いや、引退試合のために練習頑張らなあかんから、今日は寝よ。

いやほんまに受験生か!と疑うほどのふんわりムードだが、千尋はやれば出来る子だから大丈夫だ(と信じている)。

そんなこんなで一日が終わった。