かち合う視線、縮まる距離に心臓が徐々に動きを早めていく。

さっきもあんなに強く抱きしめたというのに、まだ足りないと訴えるみたいに、大蔵は私の身体を包み込む。

「大蔵……?」

小さく名前を呼べば、耳元に近付いてくる大蔵の顔。

そのまま頬に唇が触れて、甘い痺れに肩が震えた。

ふっと笑う大蔵の吐息が耳にあたってくすぐったい。

そのまま私と大蔵の額がぴたりとくっついて、至近距離で見つめられる。

愛しいものを見るような、優しい瞳が私を捉えて離さない。

そして、あたたかさの名残りを惜しむようにゆっくりと離された額。

ぐっと力を入れて抱き寄せられて、大蔵の胸に額がぶつかった。

「明日の朝、迎えに来てもいい?」

耳元で囁くような声が、私の鼓膜を震わせる。

この間は勝手に待っていたくせに、わざわざ断りを入れられると逆に返事をしにくいことを、大蔵は分かって言っているのだろうか。

だとしたら、かなりの意地悪だ。

胸の中で頷くだけの返事を送れば、今度は額に唇が触れた。

一瞬の出来事。

さすがの大蔵も、自分で自分のしたことに照れた様子で、身体を離すと私の少し前を早足で歩いていく。

小走りで駆け寄って覗き込んでみると、耳を赤くした大蔵に「見んな、アホ」と悪態をつかれたあげくデコピンまでされた。

甘い余韻が鈍い痛みで一気に冷めていく。

優しいのかそうじゃないのか……。
照れ隠しだって、分かっているけれど。

どこか嬉しそうな表情をする大蔵の横顔が見えて、私の頬も自然と緩んでいく。

大蔵のことが好きだ。

そう思うのに、きっと時間はかからないだろう。

大蔵の想いに、優しさに、私も出来る限り応えたい。

これで良かったのだと、そんな思いを噛み締めながら、家までの道をまた手を繋いで歩いた。