乗り換えの駅に着いて、人混みに紛れて電車を降りる。
しばらくして、駅のホームから道路を歩いていく2人の姿が小さく見えた。
そもそも電車通学ではないはずの橋本さんが、イチくんと電車に乗っている。
それが何を意味しているのかなんて、嫌でもわかることだった。
自然と繋がれた手。
仲睦まじく肩を寄せて歩く2人を目の当たりにして胸を痛める権利なんて、私にはない。
2人は結ばれる運命だったのだ。
それはきっと、イチくんが夕陽に照らされている橋本さんの写真を撮ったその日から。
大好きでした。
太陽のような君のことが、私はとても好きでした。
願わくは、私の世界に光と色を与えてくれたイチくんがこれからも幸せでありますように……。
最寄り駅に着いて、しばらく無言で歩き続ける。
ふと前を歩いていた大蔵が歩くスピードを緩めて、私の横に並んだ。
「……さっきはありがとう」
「なにが?」
「言うと思った」
「だから何の話だよ」
大蔵がふっと表情を緩める。
2人きりになっても、私が泣いた理由を聞こうとしない。
無理に会話をしようと背伸びしなくても、傍にいてくれる安心感がある。
きっと、付き合えば今以上に大事にしてくれるだろう。
そっと、手に触れてみる。
握った手は、昔の小さくて柔らかな感触とは違う、ごつごつとした男の人の手だった。
弾かれたように顔を向けた大蔵。
私は顔を上げて、視線を合わせた。
「私も、大蔵のことが好きだよ」
守ってくれたことが嬉しかった。
何も言わずに傍にいてくれるのが心地よかった。
助けてもらってばかりだった大蔵に、私はこれから何をしてあげられるだろうか。
ゆっくりと言葉を紡いでいけば……。
「……言っただろ。好きでやってるって」
道路のど真ん中だというのに、ぎゅうっと両腕で抱きしめられる。
片手で頭を押さえつけられるような乱暴なものではなく、優しく包み込むように。
たどたどしく背中に手を回してみれば、あたたかい手が頭に触れて、2人の距離がさらに縮まった。