駅に着いたところで苑実と分かれて、私と大蔵はちょうど来ていた電車に乗り込む。
席が埋まっていたから、開いている方と反対側のドアの前に立つことにした。
アナウンスが聞こえて、ドアが閉まる。
その直前。
慌てて車内に乗り込んで来た2人がいて、なんとなく振り返る。
「……っ」
なんて最悪なタイミングなんだろう。
よりにもよって、イチくんと橋本さんが同じ車両に乗ってくるなんて……。
目が合ってしまう前に目線を元の位置に戻した。
他の乗客で通路がいっぱいだったのか、私に気付いていない2人はそのままドアの前に立っている。
時折橋本さんがイチくんに会話を振っているのが聞こえた。
「イチ、顔にペンキ付いてるよ?」
「……知ってる。つか触んなって、近いし」
「何よー、拭いてあげようとしてるんじゃない。じっとしてて」
「こんなとこで、んなことしなくていいから」
「それって、ここじゃなかったら良いわけ?」
聞きたくない。
そう思うほど、鮮明に聞こえてしまうのはなんでだろう。
動き出した電車。
俯いて両手でぎゅっと手摺りを握りながら、どうか見つからないでと心の中で神様にお願いする。
ずっとこのままの姿勢でいられたら良かったのだけれど、次の停車駅で開くのはこっち側のドア。
ここでじっとしていたら、乗ってくる人の迷惑になってしまう。
考えているうちに一つ目の停車駅に着いて、無常にも躊躇いなくドアは開く。
身体を動かそうとした時だった。
「んむっ」
大蔵が私の背中に手を回し、自分の身体に引き寄せた。
一瞬の出来事に驚いて、もぞもぞと身体を動かすと。
「黙って寄っかかってろ」
頭の上に大蔵の声が降ってきた。
片手で頭を押さえつけられて、頬がピタリと大蔵の身体にくっついて動けない。
ドキドキと大蔵の心臓の音が聞こえた。
私たちが下りる駅に着くまで、そうやってずっと目隠しになってくれていた。
そんな大蔵の優しさがあたたかくて、胸の中でそっと目を閉じた。