大蔵のクラスに着いた。
顔だけは知っているけれど、話したことのない人がたくさんで、まるで目の前にバリアでもあるかのように私は廊下で立ち止まる。
人から不審な目で見られている気がして、早く自分のクラスに戻ろうと思った。
そんな私を、教室に段ボールを置いた大蔵が呼び止めに来る。
「みあ、今日終わったら教室で待ってろよ」
「え?」
「一緒に帰ろうって言ってんの」
「でも、部活は?」
「今日は休み」
テスト前以外に部活がないなんて、そんなレアな日に私と帰ってしまって良いのだろうか。
友達と、どこかに出掛けたりとか……。
考えていると、痺れを切らしたように大蔵が変な顔をして私のオデコを小突いた。
「俺がお前と帰りたいって言ってんだから、お前は余計なこと考えなくて良いんだよ。お前、俺が好きだっつったのもう忘れたの?」
ふとさっき橋本さんに言われたことを思い出す。
『垣谷さんには西野くんがいるのに!どっちもなんてズルいことしないでよ!』
どっちもなんて、そんなこと思っていない。
でも、それならどうすることが正解なのか、それが分からない。
分からないから、どうすることもしない。
もしかしたらそれが卑怯だと言うのかもしれない。
じゃあ、素直に話せば良いのだろうか。
大蔵の想いに応えることは出来ない、と。
言ったら、どうなる……?
大蔵と私は今のままの関係を続けることが出来るのだろうか。