階段の壁に背中をぴたりとくっつけて、大きく大きく息を吐く。

溜め息と一緒にこの悲しくて苦しい気持ちも吐き出せたら、どんなに楽だろうか。

……渡したかったな。
話したかった……。

手の平で顔を覆って、もしもの光景を瞼の裏に思い起こしてみる。

わざと自分の生徒手帳を渡したことがバレて、イチくんはどんな顔をしただろう。

想像しただけで胸の奥がじんとなった。

この気持ちはもう勘違いでも思い過ごしでもないことは、自分でも痛いくらいに分かっていた。

イチくんが好きだ。

けれど、イチくんは橋本さんと……。

じゃあどうして、イチくんはあんなことしたの……?

ただの気まぐれ?

その時、下から誰かが階段を上る足音が聞こえて目を向ける。

その人は大量の段ボールを抱えていて、私に気付いたのか横からちらりと顔を覗かせた。

「んなとこで何やってんだよ。さぼりか?」

「なんだ、大蔵か……。さぼってない。休憩」

「どう違うんだよ。暇なら手伝え」

言いながら、身体よりも段ボールを私の方に寄越してくる。

確かに一人で抱えるには大仕事に見えて、私は素直に手を伸ばす。

「アホ。冗談だよ」