道具の調達に走り回る人や廊下で看板や大道具を作る人、友達とたわいのない会話を楽しむ人たちで、いつもより賑やかな廊下。

そんな中を、同じクラスの私と橋本さんが2人連なって歩いていることを変に思う人は誰もいない。

私だって橋本さんと2人きりになることに、こんなにも憂鬱な気持ちでいたいわけじゃないけれど、どうしても眉を寄せて私を見つめる橋本さんの顔が頭から離れなくて。

気まずい思いを拭えないまま橋本さんの後ろをトボトボとついて歩いていると、階段の踊り場まで来た時に橋本さんの足はようやく止まった。

ここからでもザワザワとした声が微かに聞こえてくるけれど、廊下にいるよりは静かで、誰かが来る気配もない。

振り返った橋本さんは私の目をまっすぐ見据えて、ゆっくりと視線を私の手元に落とした。

「それ、イチのだよね?」

私はどきりとして、生徒手帳を両手で隠すように持ち直した。

「……どうして、知ってるの?」

「後ろからずっと見てたから。イチが自分のポケットから出して、垣谷さんに渡してるとこ。何してるんだろうって、そんなことしても意味ないのにってずっと思ってた」

そっか。

だからあの時、橋本さんは変な表情で私のことを見てたんだ。

でも、意味がないなんてことはなかった。

こうして私がイチくんに会いに行くきっかけを、イチくんが作ってくれたんだもん。

やっぱり、わざとそうしてくれたんだ……。

胸がぎゅうっと締め付けられて、熱くなる。

イチくんを好きだと思う気持ちが、また一つ増えた気がした。