「どうしたの、急にそんなこと言って」

うつむき気味に顔を伏せる本田君は、なんだかショックを受けているように見える。

「柳内さんの母親のこととか、家事をしてるとか……ポワンとしてるから、悩みなんてなさそうに見えたけど、大変なんだなって」

「あ、なんだ、そんなこと? まぁ最初のうちは大変だったけどね。今はもう慣れちゃったよ」

なんでもないよという風に笑い飛ばした。だけど、本田君は複雑そうな表情を崩さない。

「俺の前では、無理に笑わなくていいから。柳内さんのこと、もっと教えてほしい」

ああ、どうして本田君には見抜かれちゃうんだろう。隠せないんだろう。

「たまーにね、寂しくて泣きたくなることもあるんだ。亜子、四人姉妹の末っ子でかわいがられて育ったから……」

ほだされて、つい本音が出た。泣きたくなんかないのに、涙がじわじわと浮かんでくる。

本田君にはバレたくなくて、とっさに下を向いた。

大好きだったお母さん。優しくて、料理が得意で、いつでもどんな時も笑顔だった。でも、怒ると怖くて。

そんなお母さんは私の憧れだった。

「一人で家にいる時間が長いと、ついついお母さんのことを思い出しちゃって……って、ダメだよね、暗くなってちゃ」