今度は口をへの字に曲げて怒ったような顔を見せる。コロコロと変わる本田君の表情。
「そんな奴に笑いかける柳内さんがわかんねーわ、俺」
「まぁ、最近までツラかったんだけどね。でも、いつの間にかそうじゃなくなってた」
「え?」
「前に進んでるっていうことなんだと思う」
別れた直後はツラくて、毎日泣いてばかりいた。後ろを振り返ってばかりで、前を見ることなんてできなかった。
暗い闇から抜け出せずに、抜け殻のような日々を過ごしていた。心から笑える日なんてこないと思っていた。
でも、今はそうじゃない。人は誰しも後ろを振り返るだけじゃなくて、前を向くことができる。私がそうだったように。それはきっと、とてもささいなことがきっかけだったんだ。
「本田君が、いてくれたからだよ」
きみのその誠実なところが、優しさが、明るさが、まっすぐさが、温かさが、強さが、私の心を変えた。
「さっきの答え。亜子の中で太陽は忘れられない存在だけど、でもそれはもう思い出の中のことだよ」
好きだとか、未練があるわけじゃない。
今なら心からそう言える。
満面の笑顔で、本田君の顔を見上げた。
しばしの間、沈黙のまま見つめ合う。
先に目をそらしたのは、珍しく本田君だった。
「そんな顔でそんなこと言われたら、期待するけど?」
「え、いや、あの、それは……っ」
「それと。その笑顔、俺以外の男に見せるの禁止だから」
え?
「な、なんで?」
へんってことかな?
「かわいすぎて、ほかの男に見せたくねーんだよ。そんぐらい気づけよな」
ちょっとムッとしながら、本田君は恥ずかしさを隠すように私の頭をガシガシと強く撫でる。
「ちょ、もう。やーめーてー!」
なんなんだ、このやり取りは。付き合ってないのに、付き合ってるみたい。
人を好きになるのが怖い、傷つきたくないって思っていたけど。
この決心は簡単に揺らぎそうだよ。