スーツに皺がつかないようにそっと背中に手を回すと、零さんは嬉しそうに私を見つめた。


ゆっくりと近づいてくる零さんの顔を見ながら、キスされると思い目を瞑る。


「まゆ…」


ドンッ!!!!


「「!!??」」


キッチンから突然大きな音が響き、音のほうを見ると笑顔で幹さんがこちらを見ている。


「申し訳ございません。目の前でいきなりいちゃつきだしたバカ二人に苛立ちを感じてしまい、ハンバーグのタネを思い切りボールに叩きつけてしまいました」


秘書モードで話す幹さんに背筋がゾワッとした。


零さんはやれやれと私から離れ、あとでねと耳元で囁くとソファに座り新聞を広げた。


あっ、零さんにコーヒー持ってこよ。


キッチンに向かい、幹さんの隣に立った私はごめんなさいと小さな声で謝った。


「今後俺の前ではまじ止めてくれ。友人のラブシーンほど見たくないものはねーから」


確かに。私も学生時代、たまたま友達のそういうシーンを見ちゃって気まずくなったもんなぁ。


「以後気をつけます」


「そういや、今日仕事は?」


「えっと、10時から18時までです」


幹さんはわかったと言って、また手を動かす。邪魔になってはいけないとコーヒーを持って零さんのもとに戻った。