「いい天気だ」



彼の言葉に同じ方向を目で追いかけると、そこには青い空に飛行機雲が一本伸びている。

空の色も、頬を撫でる風も、全てが爽やかな景色だ。



「はい。暑いですけど、晴れのほうがいいですよね」

「ね。雨の日もたまにはいいけど、あんまり続くのもなぁ」



『雨の日』

その言葉に思い出すのは、6月のあの日のこと。

初夏の湿気の中、降り出した雨。

あの日の雨音が今でも耳に残っている。



暗い気持ちは、真紘先輩の顔を見たら吹き飛んだはずだったのに。

こうやってまた、すぐ引きずり落とされる。



「……私は、雨は嫌いです」



ぼそ、とつぶやいた言葉に、真紘先輩は少し驚いたようにこちらを見た。

そして小さく口を開く。



「雨が嫌いだから、晴れが好き?」

「え?」



あの日のことを思い出すから、だから雨は嫌い。だから晴れのほうがマシ。

その気持ちを見透かすようにたずねた彼に、小さく頷く。



「……まぁ、そう、ですね」



ぎこちないその返事に、真紘先輩は「へぇ」と軽く頷く。

そして、私の頭をポンポンと撫でた。