先生からこっぴどく叱られたあと、反省文を書けと紙を渡された。
「先生、あんなに怒らなくてもいいのにな」
笹倉くんは口をとがらせ、不機嫌そうに言った。
「ごめんね、私のせいで…」
元はと言えば私のせいだ。私が倒れなければお互いホームルームには間に合っていた。
「いや、水沢のせいじゃないよ。そもそも水沢は保険室行ってたって言えば怒られなかったのに、なんで寝坊って言ったの?」
不思議そうにこっちを見てきた。
「ほんとに寝坊したから…ふふっ。それを言うなら笹倉くんだって同じだよ。私を保険室に運んでたって言えばよかったのに」
目を合わせ、ふふっと笑いあった。

「にしても、反省文かー」
教室に戻ったあと、私は窓側の一番後ろ、自分の席に座ってその前の席に笹倉くんが座った。
「なんて書く?」
そう言って笹倉くんは後ろを振り返った。
「うーん、まず、経緯…とか?」
笹倉くんはこっちを向いて座った。
「経緯…経緯…高校が楽しみすぎて昨日寝るのが遅くなりました…と。」
声に出して書き始めた。
「ふふっ、楽しみだったの?私と同じだね」
そう言うと少し恥ずかしそうに目を合わせてすぐ逸らしていた。
(…可愛い)
そして、黙々と書き進めた。

***
「ふぅ…」
やっと反省文を書き終わった。
(すごい集中して書けた…やればできるじゃん)
「水沢ーーー」
ぱっと顔を上げると水沢は伏せて寝ていた。
(しっかりしてそうだったけど反省文書いてる途中に寝たりするんだな…)
さーっと風が吹き込む。栗色の髪の毛が優しくなびく。
「…綺麗」
きらきらひかる髪に手をのばす。少し顔が見えた。
(綺麗な顔してんなー…)
髪から頬に手をのばす。そして、ゆっくりとそっと顔を近づける。

キーンコーンカーンコーン

はっと我に返る。あと数センチで水沢髪にキスしてしまうくらい近かった。ガタッと後ろに引き、行き場のない手とともに固まった。水沢を起こさない程度の咳払いをする。手を口元に持っていく。
「…なにしてんだ、俺」
ボソッと呟く。顔が熱い。気づかれないようにその場をあとにした。