誰しもいつか必ず死ぬ。
それは当たり前のことで仕方の無いこと。
そのはずなのにいざ誰かが死ぬ場面に直面するとどうしても信じられない。
これは私が中3だった時の出来事。


もうすぐ中学校最後の体育祭。第2土曜日だからその日は学校だった。体育祭予行の日だった。その日は心なしか胸騒ぎしていた。おばあちゃんがもうすぐ死んでしまうのではないかと。入場行進、ラジオ体操、短距離走の途中で学校に私宛に電話がかかってくるのではないかと。おばあちゃんは1ヶ月ほど前から病院に入院していた。もともと持病があり、検査に行った時にすこし気になることがあったらしく入院した。しかし、1ヶ月も経てば退院できると医者は言っていた。既にもう1ヶ月経っているのに。

何事もなく、学校が半日で終わり家へ帰った。するとお母さんはすぐに私に着替えるよう言った。
「今から病院に行くよ」
私は最悪のことが頭をよぎった。信じられない、信じたくない。そう思いながら病院へ向かった。病室のドアを開け、そこにはおばあちゃんが寝ていた。周りに大きな機器がたくさん置いてあった。おばあちゃんは酸素を送る装置が付けられていて、心電図の装置も置いてあった。私とお父さんとお母さんはベッドのすぐそばに立った。
「柚、ばあばって呼んであげて。起こしてあげて」
お母さんがそう言った。向かい側にはナースが2人ほどいて、ばあばと呼ぶのが少し恥ずかしかった。
「ばあば、起きて、ばあば」
呼んでも起きない。心電図のピッピッという音が響く。
「ばあば、ねぇ、ばあば」
少し肩をトントンと叩いてみる。しかし、ずっと目をつむっている。起きる気配がない。
「あ、あれ、起きないや…」
ははっと少し笑って振り返ると悲しそうに笑いかけるお父さんとお母さんと目が合った。その時、私は何かを悟った。声が出なかった。おばあちゃんに目を向ける。ただ呆然と顔を見た。
(…嘘だ。だって…この間まで…)
目が熱くなる。とめどなく涙が零れてくる。もうばあばと呼ぶことが出来なかった。後ろから鼻をすする音がした。初めて親が泣いているところを見た。
「柚、ばあばの手を握って。」
私は手を握った。その手はびっくりするほど冷たかった。
「柚、ばあばって呼んであげて。話しかけて。」
私は声が出なかった。声を出したら涙が止まらなくなる。何を話せばいいのかもわからない。
「柚、ほら」
お母さんは何度も何度も私を促した。しかし、それに応えることは出来なかった。やがて、ナースもいなくなり、4人の空間になった。いくら握っても冷たいままの手。次第にピッピッという音がゆっくりになっていく。
そして、ついにピーっとひとつの長い音になった。