──物部一葉《もののべ かずは》。

 携帯を機種変しても電話帳に残っていた彼女だが、連絡は全くと言っていい程、取っていなかった。

 しかしなぜ今日彼女を呼び出したかというと、俺は彼女の存在の奥に、もう一人、本命で会いたい人がいたからである。

 それにしても、その例のもう一人は中々現れず、俺は雨降る窓外に目をやった。時間はきっちり守るタイプだから、遅れているのは珍しい。

「一葉ちゃん、本当に、来てくれるって?」

「うん、まぁ言われた通り、駿さんの名前は出してないよ」

「だったらいいけど。待ち合わせなんて柄になく久々だから、ちょっと緊張してる」