すぐ近くまで来くると、名前も呼ばずにいきなり腕を握るから、立ち止まった幸さんはすごく驚いた形相で俺を見上げた。 「かっ……」 「どうして」 「か、篝、さん……な、何ですか」 「何で濡れてるんですか。傘は?」 すぐに持っていた自分の傘を差すものの、既にどちらもじゅっくり濡れており、幸さんはおでこに付いた前髪をかく。 「アルバイトの子に……貸しました」 「え、貸したんですか。幸さんが濡れちゃうのに?」