「ねぇ、篝君、今の見た? 走って行った人、幸さんじゃない?」

 雨の中鞄を抱いて濡れながら走り去ったのは、どうやらやはり幸さんらしく、涼香も見逃していなかった。

「傘忘れたのかな? 濡れてたね」

 しかし、大丈夫かな……と呟く涼香の横で、俺は一瞬考える暇もなく、気付けば椅子を立ち上がっていた。

「篝君?」

「ごめん、すぐ戻る」

「えっ篝君?」

「ごめん、ちょっと行ってくる」