「お店の選択、間違えましたね」

「……いえ、お肉は美味しかったので。篝さん、困らせちゃって、本当にごめんなさい」

「ううん、全然」

 私の小さな声にも篝さんは耳を傾けてくれ、私達は立ったまま視線を合わせる。

「……篝さんは、優しいですね」

「そんなことないですよ。俺はただ……」

「……ただ?」

「幸さんの悲しそうな顔、見たくないだけで」

 あぁ、きっとこの人はモテるんだろうな。

 好意なんてないのに、サラッとこんなこと言って、私に消したい過去がなかったら、単純にトキめいてそうだ。

 ──帰りましょう、と再び言ったのは、私の方が先だった。

 この名の付けようのない感情を、何と呼べばいいかは、分からなかった。