でもその前に。
紅林さんが何を思ってこの話を私にしてくれたのか。
過去を打ち明けるのは勇気がいるだろう。
それを私に話してくれたのはとても嬉しい。
でもね。
肝心なことが聞けてないの。

「紅林さんはどうしてこの話を私にしてくれたんですか?」

だってこんな話、誰にでもベラベラ話すことではないでしょう?

「それは…。俺が…可憐を好きだからだ。」

言われて、体全体に電気が走るような感覚に陥った。
ずるいよ、そんな、名前で呼ぶだなんて。
全身の毛が逆立つなんて、ジブリ映画にしかないことだと思っていたよ。
胸がいっぱいでぎゅううっって締め付けられる。

紅林さんはふと、表情を緩める。
そこには、いつもの紅林さんがいた。
それに、私は安心する。

「私はずっと好きですよ。話を聞く前から、聞いた今も、ずっと好きです。好きだから、優香さんにいっぱいヤキモチ妬いて、悩んだりして。」

「ごめん。」

「でも、話してくれて嬉しいです。またひとつ、紅林さんとの距離が近付いた気がしました。今すごく、幸せです。」

微笑んだつもりだったのに、頬を一筋涙が伝った。

「泣くなよ。」

そう言って、紅林さんの胸に絡めとられた。
ぎゅうっと抱きしめられる。

ああ、前にもこんなことがあった。
泣いた私を抱きしめてくれた。
優しい紅林さん。
でもね、あの時とは違うの。

「嬉しくて泣いてるんですよぅ。」

私は鼻をぐずぐずさせながら笑った。
“好き”って言ってもらえただけでこんなにも幸せな気持ちになるなんて。
なんて魔法の言葉なの。