私の家に来た紅林さんは厳しい顔つきで、いつもの柔らかさはない。
周りから言われている“無愛想で取っつきにくい堅物”そのものになっている。
ということは、いつもの私といるときの紅林さんは気を許してくれてたってことなのかもと、頭の片隅で思った。
だけど今は違う。
それが余計私の緊張を誘う。
そんな中、紅林さんが静かに口を開いた。

「前に君は過去を受け入れてこそ本当に好きなんだと思うと言った。今から話すこと、それを聞いたあとの気持ちが知りたいんだ。」

何を話されるんだろう。
過去のこと?
優香さんのこと、とか?
聞きたいような聞きたくないような、そんな気持ちに心臓が押し潰されそうになりながら、私はコクンと頷いた。
私の頷きを見てから、紅林さんはポツリポツリと語り始める。

「俺は子供の頃に両親を亡くして身寄りがなくて施設で育ったんだ。奨学金で大学まで出て、今の会社に設計職で入社した。優香とは同期だ。結婚したけど、俺が仕事人間で残業ばかりしていたから不満だったんだろう。優香は俺の上司と不倫をした。」

そういえば明日美が言っていた。
“離婚原因は奥さんの浮気らしいよ”って。
大島さん情報、本当だったんだ。
人伝に聞いたことを直接本人から聞くと、妙に納得してしまう。

「…それを俺は知らないまま、子供ができたと言われて喜んだ。優香の言葉を信じた。」

子供…。
やっぱりいるの?